最強忍者戦士スキタイ―ラスト・ウォーリアー―
【寸評】
『ラスト・ウォリアー 最強騎馬民族スキタイを継ぐ者』(ラスタム・モサフィール監督、露、2018年)を途中まで観る。
『ラスト・ウォリアー 最強騎馬民族スキタイを継ぐ者』(ラスタム・モサフィール監督、露、2018年)を途中まで観る。
冒頭で主人公の嫁(ヒロイン)がさらわれるのこの手の映画あるある。11世紀のアゾフ海に面するタマン半島にあったトムタラカニ公国が舞台で、トムタラカニ公オレグは実在の人物である。遊牧民みたいな部族とか、岩下志麻『卑弥呼』の暗黒舞踏団みたいな神官?や『キングダム』に出てくるような森の民とかが出てきて、主人公はお前は一体何者だ、とか訊くが、時代背景が分からないこっちからすればそもそも主人公が何人なのか分からないままストーリーは進行する。スキタイはいつ出てくるのかとあくびしながら視聴する。すると途中から主人公の相棒になるロン毛のシュッとしたキャラがどうもスキタイの生き残りらしいことが判明。ロン毛をもちあげると実はモヒカンで、冒頭でよく分からない理由で暴れ回っていたむっちゃ強いモヒカン頭がこいつだったのか、と認識、そこからは俄然興味がわく。
話の筋は、主人公が仕える王の敵の奸計により主人公は逆賊として捕らえられてしまうが脱走し、敵の企みを暴けと王の密命を受け、スキタイ人の相棒とともに妻を探しに行く、というもの。スキタイ人は騎馬の追手をパルチアンショットよりさらに難度の高そうなアクロバチックな馬上弓術で次々に倒す(ただしどうやっているのかはよく分からなかった)。妻が連れて行かれた謎の部族の集落では子供たちが戦闘訓練をしている。妻とともにさらわれた赤子は奴隷として売られるか、オオカミ(戦士のことらしい)として育てられるか選ばされる。オオカミを選ぶと殺し合って10人に1人しか生き残れないという『あずみ』の冒頭のような設定。スキタイ人の戦い方もアクロバチックかつ騙し討ち系のアサシンのような感じなので、どうも遊牧民には忍者のイメージがつきまとう。
追手を殲滅した主人公とスキタイ人は下手こいて森の民に捕まってしまう。スキタイ人は森の民が飼っている化物と高い壁に囲まれた円形闘技場で戦わされる。森の民がそっちに気を取られている間に、吊るされたままになっていた主人公が抜け出して落ちていた濁った飲み物を飲む。すると野獣のようになって暴走して円形闘技場に飛び込んで化物をエヴァ初号機が使徒をほうむるようにボコボコにしてさらに森の民を皆殺しにしてしまう。主人公の方が最強騎馬民族であるはずのスキタイ人も引くぐらいの凶暴さだったが、我に帰ると無辜の民を殺めてしまったと後悔する。
このあとトオルとヒロシのような名コンビがついにラスボスを倒しに向かうのであろうが、スキタイ人が死んだりしたら悲しいのでここで観るのをやめておく。(2022年8月27日投稿)
【関連世界史用語】
スキタイ、ポロヴェッツ(キプチャク)、キエフ公国
【分析】
この映画の舞台は冒頭ナレーションによれば、11世紀のトムタラカニ公国。黒海北岸とつながるアゾフ海の入り口でクリミア半島と向かい合うタマン半島にあったルーシの公国で、リューリク家の出であるオレグという人物が支配していた。
当時の黒海北岸にはトルコ系のポロヴェッツもこの一帯に進出しており、映画にも登場するトムタラカニ公オレグはポロヴェッツの汗とも結びついていた。キエフ大公からの使者がオレグに「チェルニーゴフを任せる」と伝言するが、チェルニーゴフはオレグの父スヴャトスラフ2世の領地であり、オレグはポロヴェッツと組んでたびたびこの地を狙って出兵した。
スキタイ人が活躍したのは紀元前7・8世紀頃からで、スキタイが住んでいたのはアゾフ海の北方ザポリージャなので、時代的にも地理的にも懸隔がある。しかし、スキタイ人はゲルマン人などとまじりあってスラブ人になっていったともいわれている。その長いプロセスのどこかで、この映画のような状況があったという設定なのだろう。
ロシア史学者栗生沢猛夫は、ロシアという国の特徴として多民族性を挙げている。この映画の舞台である黒海北方は諸民族の居住地となった場所であり、そのもっとも早い集団はイラン系の遊牧民スキタイ人であった。栗生沢は、中世ロシア文学を繙くならば、「ロシアには自民族のみをよしとする狭隘な民族主義はむしろ弱く、この点ではロシア人は開かれたおおらかな気質をもっていたと思わせる」という(栗生沢猛夫『図説 ロシアの歴史』河出書房新社、2014、増補新装版、14~15頁)。劇中ではスキタイはオレグによって殲滅されてしまうが、主人公はスキタイのスピリットを受け継いでいく。主人公の姿は、ロシアという国が様々な民族を吸収していった歴史を象徴するという見方もできるだろう。
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