悠久のガンジスのごとく―バーフバリ―
『マガディーラ 勇者転生』を観終わらないうちにAmazonにお薦めされた同じ監督の『バーフバリ 伝説誕生 Baahubali: The Beginning』(2015年、印、S・S・ラージャマウリ監督)を観始める。
インドの最高額予算で作られた歴代最高興行収入映画。名前を見てバリ島の港市が舞台の東南アジア映画かと連想したが違った(Wharf Baliみたいな)。そこそんなに時間使う?いまの一連のくだり何やった?と思ってしまうほど、ストーリー展開が悠久のガンジス川の流れのようにゆったり感じられ『ロード・オブ・ザ・リング』とよく比較されるのも頷ける中世風ファンタジー大作の風格を感じさせてくれる。
主人公シヴドゥは目つきが『ナイトライダー』のマイケル・ナイトのような精悍さ溢れ出るワイルド・ガイ。シヴァと重なるような描かれ方をしてるのは、『マガディーラ』と共通する。シヴドゥが住んでる村に大河の水がすごい高低差で流れ落ちる巨大な滝があって、彼は岩壁をよじ登り、その滝のてっぺんまで行こうと日々挑んでは失敗している。育ての母サンガはシヴドゥがその挑戦やめてくれるようにと、滝の水を汲んできてシヴァの御神体(リンガとヨニのセット)にかけるという願掛けを行う。バラモンみたいな人が1001回水をかけると願いが叶うと告げたからだ。こういうウクライナの戦争を止めるために千羽鶴を折る的な百度参りみたいなものが少なくともインドにはあると分かった。それより西にはあるのだろうか。
母の無理を心配するシヴドゥは機転により母が水汲みをしなくても願掛けができるような仕掛けを思いつく。しかし、滝のところに青い蝶が化けた美女の飛天が現れ、それに誘われるまま、シヴドゥはついに滝のてっぺんまで到達する。自動願掛けシステムを考案したのはシヴドゥだからシヴドゥの願いが叶ってしまうというオチか。このくだりは歌手の美声と清涼感ある音楽と映像美とが素晴らしく陶酔できる。
シヴァ神はガンジス川を髪の毛で受け止めることができるとされ、シヴァ神の髪に小さなガンジス川の女神ガンガーが描かれることがある。ローカルな川の神がメジャーなシヴァ神信仰に結びつけられた例とも言われる。この映画の青い蝶が化けた飛天は、ガンガーなのだろうか?
シヴドゥがてっぺんに到達すると、さっきの飛天と顔の区別がつかない女戦士みたいなのが追手から逃げてくる。さっきのが川の女神ガンガーだとすると、こちらはシヴァの妻パールヴァティかそれが凶暴化したカーリーを意識しているのだろうか。(2022年3月8日投稿より改訂)
『バーフバリ 伝説誕生 Baahubali: The Beginning』(2015年、印、S・S・ラージャマウリ監督)
『マガディーラ』を観た勢いで一気に観てしまう。これはインド映画史に残るであろう大作ということで、それにあわせて長文になってしまう。
滝の上から落ちてきた仮面を拾った主人公シヴドゥが、その仮面の持ち主を勝手に妄想し、彼女に会いたい一心で滝の上のクンタラへやってきた。持ち主は地下組織の女戦士アヴァンティカで、その組織はみんな同じような自分の顔の仮面をつけている(それは仮面と言えるのか)。
場面変わって、マヒシュマティ王国(架空)の兵器工場にアスラム・カンという中東商人が剣を売りにやってきて工場長カッタッパに、バクダッドの鋼からゴラン高原で作り上げペルシアで鍛えた剣を売ろうとする。カッタッパが、残念ながらこの剣は自分の速さについてこれないと言うと、アスラムが怒って斬りかかってくる。ビジネスマンとしてどうなのだろう。カッタッパがこれを迎え撃ってバクダッド鋼の剣は折れてしまう。アスラムはカッタッパのような剣士が奴隷身分であることに驚き、お金を払って自由の身にしたいと申し出るが、カッタッパは金では買えない、先祖の誓いにより奴隷であると言って断わる。ここにはイスラム史とインド史の従属民の違いが描かれている、のかどうかは知らない。そして、カッタッパになんかあったら命をかけて助けようとアスラムは誓いをたてる。
王宮では囚われの身であるバーフバリの妻でシヴドゥの実母が鎖に繋がれた状態で薪を運んでいる。その薪はもうすぐバーフバリの子が現れバラーラデーヴァを倒すので、そのとき憎きバラーラデーヴァのやろうを燃やすためだと言う。
アヴァンティカは組織のリーダーの指名を受けて専制的暴君バラーラデーヴァを暗殺しに単身王宮へ向かうが、シヴドゥがしつこくつきまとってインド映画恒例の歌とダンスがしばらく続く。結局シヴドゥが代わりに王宮は乗り込むこととなる。
バラーラデーヴァは兵士を動員して巨大な黄金の自分の像を立てようとしていたが、兵士を無駄に酷使しすぎたためぶっ倒れ、像が崩れ落ちてしまいそうになる。そこへスローモーションで現れた顔を隠したシヴドゥの活躍で事なきを得るが、シヴドゥの素顔を見た兵士が「バーフバリだ」と口走り、その名が瞬く間に兵たちの間でその忘れられかけた英雄の名がこだまする。生まれ変わりと、父と子はしばしば同じ顔である。
バーフバリは、かつてくずやろうのバラーラデーヴァと王位を競った心優しく人望厚い王子だった。その活躍は人々の脳裏に刻まれている。映画の残り半分は、そのバーフバリの活躍を描く。そのとき、王国は前王の兄の妻シヴァガミが摂政として統治している。従兄弟同士のバーフバリとバラーラデーヴァが次の王位候補者として腕を競いあっている。そんなとき偏見という言葉を絵に描いたような蛮族カーラケーヤが王国を襲撃する。二人の王子バーフバリとバラーラデーヴァが活躍して王国のピンチを救う。このときバラーラデーヴァが乗る馬で引く戦車がすごい。馬の前に巨大な手裏剣みたいなのが水平に取り付けてあって、それが風車のように回転し、何も考えないで向かってくる敵兵をゾンビゲームのように蹴散らしていく。
その後、王国とバーフバリの身に何が起きたのか。アヴァンティカたちは何がしたかったのか。武器商人アスラム・カンは何のためにでてきたのか、色々よく分からないまま次作へ続く。これをみた観客は最初の映画版エヴァを観終わったような感覚になったであろう。
シヴァガミは何か述べたあと、「今の言葉を法と心得よ」と言っている。王の命令が口頭なのはモンゴル帝国もそうだが、こんなイメージなのだろうか。(2022年4月10日投稿より改訂)
コメント
青い蝶はモルフォ蝶のように見えるがアメリカ大陸にしかいないはず。オオルリアゲハはちょっと色合いが違うがこちらはオーストラリアとかニューギニアあたりにいるらしい。インドには居るのか。どんな意味があるのか。
ヒンドゥーの神々とからめて解説してる人いた。シヴァの妻に位置づけられる戦う女神ならドゥルガーがいた。
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