戦争をスポコン映画する―ミッドウェイ―

 「現在、世界の政治的状況は、憂慮すべき段階にあり、文明の基盤が深刻な危機に瀕している。戦争は伝染する。世界の平和や各国の安全は戦争によって脅かされている。…」 という昨今色々感慨深い演説で始まる『ミッドウェイ Midway』(2019年、米、ローランド・エメリッヒ監督)。

 これは同じドイツ人監督が作った米国の国威発揚SF映画『インデペンデンス・デイ』を太平洋戦争を舞台にアレンジしたような作品。20年位前の作品『パールハーバー』と違って関係各国全方位に忖度したあとがあり、時代の変化を感じる。ただバランスの取り方はとてもアメリカの世界史教科書と似ていて、一つ一つの部分的な描写について立場はきっぱりしており、全体としてバランスを取る方式なため、細部においては見る人が見れば様々な意見があるのかもしれない。にもかかわらず冒頭で「これは米国史上最も重要な海戦の真実である」と言い切っている。映画なのに「真実」とか、JAROって何じゃろう。
 GODZILLAをはじめとするSFパニック大作で知られ「マスター・オブ・ディザスター」との異名をもつ監督だけあって巨大な空母が燃えさかるシーンなどはド派手で大画面なら多分堪能できるのだろうがスマホで見ているとさっぱりなためかリアルさはさほど感じず、もっぱら人間ドラマとして見ることになる。ストーリー的には真珠湾で仲間を失い復讐に燃える米軍パイロットたちが、かなり苦しみながらもミッドウェイで勝利を掴むまでをかなり細部をすっ飛ばしつつ描く。
 日本はまだ追い詰められていないミッドウェイ以前の段階で、むしろ米軍機が神風特攻をして外れるが、それを南雲中将は、あいつらにそんな度胸はない、と言い切る。ところがどっこいじつは米軍には『トップガン』のマーヴェリック級の命知らずのパイロットが少なくとも3人くらいいる。そして家族に思いを馳せつつ艦砲射撃をかいくぐり危険な急降下爆撃を繰り返す。日本映画の零戦乗りの専売特許が、この映画では空のカウボーイさながらの米国パイロットに奪われてしまっている。主人公の空のカウボーイは俺は捕虜にはならんとも言う。
 米軍の被害を減らすため徹夜で頑張る情報将校のためサンドウィッチを作る妻が描かれる一方、日本将兵の家族はほんのちょっとしか描かれない。しかし、米軍爆撃機から見える日本の戦艦乗組員や米国空母を攻撃する日本の戦闘機乗りの表情がちゃんと映し出され、日本の普通の若者ぽく描かれている(一部怪しい日本語の将校が混じっているが)。この点、例えば『トップガン』ではミグのパイロットはヘルメットで顔が見えず、非人間性が強調されていたし、『インデペンデンス・デイ』の敵は人間ではなかった。そういえばウクライナのロシア兵も、初期には普通の若者だと感じさせるような西側報道もあった。あと、この手の映画では、日米の戦いだけ描いてアジアの戦場はスルーというのがよくあるが、さすがそこはちゃんと弁えていて、東京をはじめて空襲した米国爆撃機が燃料切れになって日本占領下の中国浙江あたりにパラシュートで着陸し現地の人々との交流や戦火のなかでの悲劇も描かれる。ついでに昭和天皇が空襲で避難するところで、防空壕へと言われて「あ、そう」と言うなど、変なディテールへのこだわりも見せる。
 ただ、日本映画では必須の反戦メッセージというのは感じられず、苦闘の末の清々しい勝利というスポ根映画である点は、『インデペンデンス・デイ』『トップガン』と変わらない気がする。その中で、ラスボスポジションながら必ずしも悪役ではない山本五十六役の豊悦のどんな状況でもクールで抑制の効いた声が素晴らしく、感心した。(2022年4月16日投稿より改訂)



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