中世イクメン映画―ラスト・キング―

 以前「1人 VS モンゴル帝国軍15万人」が煽り文句の『フューリアス』をチラ見したからかAmazonが『ラスト・キングー王家の血を守りし勇者たちーThe Last King』(2016年、諾、ニルス・ガウプ監督)を薦めてくる。キャッチコピーは「300人の反乱軍 VS 2人の熱き戦士(ビルケバイネル)」。

 「雪原の勇者ビルケバイネル」とか言われるとノルディック複合ラージヒル個人で最後がしがし来て渡部をほうむり金銀メダルかっさらったノルウェー選手2人をイメージしてしまう。
 この映画に出てくるビルケバイネルは王の親衛隊みたいなもののようで勇猛だが装備が明らかにしょぼい。皮衣でスキーに槍と弓矢といった古色蒼然とした装備で、敵(デンマーク人?)の鎧着てボーガン持ってる鉄騎兵団に立ち向かう。
 『フューリアス』『戦神』同様、夫は王や国への忠義のため戦い、妻は家庭が第一で、二つの論理のジレンマが描かれる。妻は王や国に対する忠勤が家庭に及ぼす影響(夫の不在、夕ご飯が冷める、家の修理の遅延など)に不満を表明する。
 『ラスト・キング』ではガンズ・アンド・ローゼズみたいな眼光のビルケバイネルが自分の家族の犠牲から即座に立ち直り、王妃と幼い王子の救出へ向かう。しかし、他のビルケバイネルたちから家族のために王子の居場所を敵に教えた裏切りものとして非難される。そんないざこざの最中に敵の騎兵隊がきて味方は死んだり捕らえられたりする。もうひとり残った愛知万博のモリゾーみたいなビルケバイネルとともに王子を背負って鉄騎兵の追撃からスキーで必死に逃げるところは、まさに追い上げてくる強豪たちから逃げ切るノルディック複合を思わせる。2人のビルケバイネルと王子はなんとか別ルートで逃げた王妃と落ち合うどっかの村に辿り着き、そこの村人たちとともに立ち上がる。
 そのとき、眼光鋭いビルケバイネルは、王や国のため家族を犠牲にするビルケバイネルとしてではなく、いち農民として家族を守るためにともに戦おう、と訴える。しかし、農民たちはなぜ幼い王子のために命をかけて戦うんだろう。
 そこにはこの映画に込められた隠された意図が関わっていると考えた。つまり、ワークライフバランス、イクメンの潮流はついに中世北欧にまで及んだのだ。2人のビルケバイネルはひとりもの(1人は妻子を失った)。一生懸命、王妃と王子のシングルマザー家庭を助ける(王子をあやそうとして泣かしてしまう武骨なイクメンイメージ)。農民たちは他の一般家庭。こうした家族形態の多様化のなか、社会的にワークライフバランス、イクメンを推進するというメッセージが込められているのだ。(2022年2月17日投稿より)

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